企業向け

法務のAX|契約業務にAIを入れる進め方と、AIの倫理面を検証する仕組みづくり

執筆澤 万純Activated Trigger株式会社 代表取締役
法務のAX|契約業務にAIを入れる進め方と、AIの倫理面を検証する仕組みづくり

法務のAX|契約業務にAIを入れる進め方と、AIの倫理面を検証する仕組みづくり

法務部門のAX(AIを業務の流れに組み込む取り組み)は、他の部門と同じ手順で進みます。体制をつくり、試し、業務フローを資料にし、対象を決めて、効果を測ります。全体の手順はAXの進め方にまとめました。

この記事では、法務の業務に絞って、使えるツール、進める順番、弁護士法との関係、公式に紹介されている導入事例を整理します。後半では、AIに何を読ませてよいかを決め、AIの使い方を倫理面から検証する仕組みについて書きます。

法務でAIを使える業務と、主なツール

法務の業務のうち、AIを組み込みやすいものは4つあります。国内で提供されている主なツールを、各社の公式サイトの表記(2026年10月時点)で並べました。製品の統合や改称が多い分野なので、検討するときは最新の公式サイトを確認してください。

契約書の一次チェック

自社のひな形や審査の基準と比べ、違いのある条項や足りない条項を洗い出します。

  • LegalOn(LegalOn Technologies): 契約書のレビュー、案件管理、契約管理、電子契約、ひな形
  • OLGA(GVA TECH): AI契約レビュー、法務案件の受付と管理、契約管理
  • Lisse法務AI Cowork(リセ): 契約書レビュー、ドラフト作成、リサーチ、案件管理、契約書管理、翻訳
  • クラウドサイン レビュー(弁護士ドットコム): AIによるリスクチェック(日本語・英語)、自社ひな形を基準にしたチェック

締結済みの契約書の管理

締結済みの契約書から、相手先、契約期間、更新期限、解約の条件を読み取り、検索できるデータベースにします。

  • MNTSQ CLM(MNTSQ): 案件管理、契約管理、AIによる契約業務の支援
  • Hubble(Hubble): 契約書の管理項目の自動入力、審査の依頼、版の管理、更新期限の通知
  • ContractS CLM(ContractS): 契約業務の一元管理、蓄積した契約データを使ったレビューの支援
  • クラウドサイン(弁護士ドットコム): 電子契約、AIを使った契約書の管理

法務相談の受付と案件の管理

事業部門からの相談を1つの窓口で受け付け、進み具合と過去の回答を記録します。単独の製品は少なく、この記事で挙げたLegalOn、OLGA、MNTSQ CLM、Lisse法務AI Coworkが、機能の一つとして提供しています。

法律の調査

法律の書籍、法令、ガイドライン、判例から、該当する箇所を探します。

  • Legalscape(Legalscape): 法律書籍・法令・ガイドラインなどを対象にした調査と、参照元を示した要約

最終的な判断(契約を結んでよいか、どの条項で交渉するか)は、これまでどおり法務の担当者が行います。AIが担うのは、判断の前に必要な読み込みと整理の作業です。

進める順番

1. 法務・情報システム・事業部門でタスクフォースをつくる

法務部門だけで進めると、情報システム部門のセキュリティ審査や、事業部門の使い勝手の確認で後から止まります。最初から3者が入ったタスクフォースをつくり、法務の中にリーダーを立ててください。

公式の導入事例にも、体制づくりから始めた例があります。大塚製薬と大鵬薬品工業は、グループ横断の導入プロジェクトチームを組み、複数の製品を比べて選んだと紹介されています。石原産業は、法務部の中で課題を出し合う場から取り組みを始めたと紹介されています。

2. まず試しに使ってみる

ツールを契約する前に、秘密情報を含まない文書で試します。公開されているひな形や、自社の一般的な取引基本契約のひな形を使い、AIの指摘がどの程度当たっているかを担当者が確かめます。

試すときに見る点は、指摘の正しさ、見落とし、不要な指摘の多さ、根拠の示し方です。複数の製品を同じ文書で比べると、違いが分かります。

3. 契約業務の現状を資料にする

BPR(業務改革)と同じ手順で、契約業務の流れを資料にします。

  • 業務フロー図: 事業部門の依頼から、審査、相手先との交渉、締結、保管、更新の管理までを図にします。
  • 業務量の一覧: 契約の種類ごとの月の件数、1件あたりの審査時間、差し戻しの回数をまとめます。
  • 課題の一覧: 待ち時間が長い工程、担当者によって判断が分かれる条項を書き出します。

開始前の数字を取っておくと、導入後の効果を説明できます。

4. 締結済みの契約書を、検索できる形にまとめる

最初に取り組みやすいのは、締結済みの契約書の整理です。更新期限の見落としを防げるため、効果を説明しやすい取り組みです。ただし、AIが読み取った更新期限や解約の通知期限は、原本と照合してから運用に使ってください。

石原産業は、約1万件の契約データを新しい仕組みに移し、契約期限の管理にかかる時間を年間のべ約200時間から約3分の1に減らしたと紹介されています。

5. 自社の過去の判断を蓄積する

AIの一次チェックの質を決めるのは、自社がこれまでどう判断してきたかの記録です。記録する内容は次のとおりです。

  • どの種類の契約で、どの条項を、どういう理由で修正したか
  • 相手先との交渉で、どこまで譲り、どこで譲らなかったか
  • 事業部門からの相談に、どう回答したか

この記録がないと、AIは一般的な指摘しか返せません。担当者が異動や退職をしても、判断の経緯が残るという効果もあります。

ただし、蓄積した記録をそのままAIに読ませてよいかは、別に検討が必要です。この点は「AIに読ませてよい情報を決める」の節で説明します。

6. 件数の多い契約から、一次チェックを任せる

秘密保持契約(NDA)や業務委託契約など、件数が多く型が決まっている契約から始めます。AIが出した指摘を担当者が確認し、見落としや不要な指摘を記録して、基準を直していきます。

ロッテの法務部は、レビューの依頼があった場合には必ずAIでチェックするというルールを定め、レビューにかかる時間が体感で5割程度短くなったと紹介されています。サンワテクノスは、一次レビューで契約書を読み込む時間を約4割減らしたと紹介されています。

7. 効果を測り、相談の受付に広げる

段階3で取った数字と比べて、効果を確かめます。効果が出たら、事業部門からの相談の受付に広げます。

オープングループは、法務の案件を受け付けて管理する仕組みを入れ、月の依頼件数が約50件から100件ほどに増えても、主に2名の体制で対応できていると紹介されています。

ここで挙げた事例は、すべてツールの提供会社が公式サイトで公開している導入事例です。自社で同じ効果が出るかは、件数と体制によって変わります。

AIに読ませてよい情報を決める

過去の判断の記録や契約書には、取引先の秘密情報、個人情報、交渉の経緯が含まれます。AIに読ませる前に、次の点を決めてください。

  • 取引先との約束: 秘密保持契約で、外部のサービスへの入力が禁じられていないかを確かめます。禁じられている契約書は、対象から外します。
  • 個人情報: 個人情報保護委員会は、個人情報を含む内容を生成AIに入力する場合、利用目的を達成するために必要な範囲内かを確認するよう求めています。本人の事前の同意なく個人データを入力する場合は、サービスの提供事業者がそのデータをAIの学習に使わないことなどを確認するよう求めています。
  • サービスの条件: 入力した内容が学習に使われない設定になっているか、提供会社が内容にアクセスできないか、データがどの国に保管されるか、保存期間の後に削除されるかを確かめます。
  • 読ませる範囲: 進行中の紛争に関する記録、役員や人事に関する相談の記録は、読ませる対象から外すのが安全です。

読ませてよい情報と読ませない情報の線引きは、法務部門だけで決めずに、情報システム部門と経営層を入れて決めてください。

AIの倫理面を検証する仕組みをつくる

法務部門には、自部門の効率化に加えて、もう一つの役割があります。会社全体のAIの使い方を、法令と倫理の面から検証する仕組みをつくる役割です。

IPAの「DX動向2026」では、AIを導入・試験利用・利用を検討している企業のうち、AI独自のリスク管理を実施している企業は14.2%でした。仕組みを持っている企業は、まだ少数です。

仕組みを公表している企業の例です。

  • 富士通: すべてのAIビジネスについて倫理面のリスクを審査する「全件審査」を義務づけています。リスクがあるとされた案件は、複数の専門部門が技術・事業・人権・法律の観点で検討します。社外の専門家で構成する委員会を置き、議論の内容を取締役会に共有しています。
  • リクルート: 弁護士やデータサイエンティストなどで構成する専門の組織を置いています。サービスの企画・設計からリリースまでの各段階で、専門の組織が審査する仕組みを運用しています。
  • 大和証券グループ: 2023年6月にグループのAIガバナンスの指針を定め、CIOを委員長とする委員会を設置しました。コンプライアンス、人事、リスク管理などの責任者が委員を務めています。
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ: 2025年3月に、人間中心、公平性、プライバシー、透明性など9項目の「AIポリシー」を定めました。

自社で仕組みをつくるときは、次の順番が現実的です。

  1. AIの利用についての方針を定める(何のために使い、何をしないか)
  2. 新しくAIを使う業務を、事前に確認する手順を決める(誰が申請し、誰が確認するか)
  3. 確認の項目を決める(個人情報、公平性、誤った出力の影響、説明の可否、知的財産)
  4. リスクが高いと判断した案件を審議する場を決める
  5. 運用の状況を、定期的に経営層へ報告する

確認の項目は、総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」(第1.2版・2026年3月)を土台にできます。同じページにチェックリストも掲載されています。

弁護士法との関係

AIを使った法務業務の支援サービスについては、法務省が2つのガイドラインを公表しています。

法務省のガイドライン公表ページのうち、公表の経緯と文書の一覧

出典: 法務省「AI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係に係るガイドライン等の公表について」の画面の一部を切り抜き(2026年10月11日に取得)

2023年8月の「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」は、契約書の作成・審査・管理を支援するサービスを対象に、弁護士法第72条との関係を整理しました。

2026年8月21日の「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について」は、生成AIなどの技術の進展を踏まえて、2023年のガイドラインを補完・拡充したものです。概要資料には、次の内容が書かれています。

  • 解釈の指針を、特に判断の分かれ目になる要件に絞って補っています。
  • 法的な紛争がすでに表面化している事案の処理を目指して設計されたサービスや、訴状など紛争を前提とした対外的な書面の作成に関するサービスは、弁護士法第72条に抵触すると評価され得る例として挙げられています。
  • サービスの提供者に対して、弁護士に代わる判断を提供するかのような表現を慎むこと、根拠や参照元を表示すること、弁護士への相談を勧める仕組みを取り入れることなどを、ガバナンス上の留意・推奨事項として示しています。

サービスを利用する企業は、次の2点を確かめてください。

  • 利用するサービスが、2つのガイドラインの考え方に沿って提供されているか(提供会社に確認します)
  • 紛争になっている案件にAIの出力をそのまま使っていないか(紛争の案件は、弁護士に相談します)

日本弁護士連合会は、2026年9月1日の会長談話で、人が判断の過程に必ず関わる「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の徹底が不可欠だと述べています。リーガルテックの事業者団体であるAIリーガルテック協会も、原則の一つに、法律の専門家が関与する「Lawyer-in-the-loop」を掲げています。

日本弁護士連合会の会長談話のうち、ヒューマン・イン・ザ・ループに触れた段落

出典: 日本弁護士連合会 会長談話(2026年9月1日)の画面の一部を切り抜き(2026年10月11日に取得)

生成AIは、存在しない条文や判例を挙げることがあります。AIの出力には根拠となる文書の該当箇所を必ず示させ、担当者が原文を確認する手順を決めておいてください。

この記事は、公表されている情報を整理したものです。個別の契約や紛争についての判断は、弁護士に相談してください。

外部の専門家を使う場面

業務フローと過去の判断の記録をつくる

日々の審査をしながら、業務フローを書き、過去の判断を整理する時間は取りにくいものです。聞き取りと資料の作成を外部の専門家が担当し、法務の担当者は内容の確認に集中する、という分担ができます。PERSONAのAI業務刷新では、業務フローの書き起こしから設計、試験運用までを担当します。

タスクフォースを支える推進役を迎える

法務とITの両方が分かる推進役は、社内で見つけにくい人材です。フリーコンサルタントを、週2〜3日の稼働で数か月迎える方法があります。任せられる仕事は、ツールの比較と選定、情報システム部門との調整、試験運用の計画と効果の測定、運用ルールの文書化です。

AIガバナンスの仕組みづくりを支援してもらう

AIの利用方針や確認の手順をつくる仕事は、法務、リスク管理、情報システムの知識がそろって必要です。PERSONAに掲載している案件にも、AIガバナンスの推進を支援する役割の募集があります。人材の相談は企業向けの人材紹介で受け付けています。

まず確かめること

契約審査の件数、1件あたりの時間、相談の件数を、数字で把握するところから始めてください。数字があれば、どの段階から着手するかを決められます。部署ごとの効率化の見込みは、AI業務診断(無料)で確認できます。

参考にした公式情報

Pillar Guide

フリーコンサルの全体像を知りたい方へ

フリーコンサルの働き方・年収相場・案件の種類・始め方まで、網羅的に解説した完全ガイドをご用意しています。

フリーコンサル完全ガイドを読む

この記事の執筆者

澤

澤 万純Activated Trigger株式会社 代表取締役

九州大学 経済学部 経済工学科 卒業後、デロイト トーマツ コンサルティングに入社。大手企業の業務改革・BPR・DX支援に約5年間従事。2019年7月にActivated Trigger株式会社を設立し、代表取締役に就任。フリーコンサル案件紹介プラットフォームPERSONAを企画・開発・運営している。

執筆者の経歴を見る
P

PERSONA(ペルソナ)

コンサルティングファーム出身者が運営するPERSONAなら、提携エージェント30社以上の案件をまとめて検索できます。大手コンサルファーム出身者1,200名以上が登録し、AIマッチングで最適な案件をご紹介します。