AX(AIトランスフォーメーション)の進め方|体制づくりから定着までの7つの段階と、止まりやすい場面
AX(AIトランスフォーメーション)は、AIを業務の流れに組み込み、仕事の進め方を変える取り組みです。この記事は、AXを進める立場の方(経営企画、DX推進、情報システム、各部門の責任者)に向けて、体制づくりから定着までの流れを7つの段階に分けて説明します。段階ごとに、止まりやすい場面と、公式に発表されている企業・自治体の事例を載せました。
AIを入れた企業の多くは、まだ「効率化」の段階にいる
IPA(情報処理推進機構)が2026年7月に公開した「DX動向2026」は、国内1,799社の回答をまとめた調査です。この調査から、現在地が分かります。
- AIを導入している、または試験的に使っている企業は58.0%です。従業員1,001人以上の企業では8割近く、101人以下の企業では16.6%でした。
- AIの導入で何らかの効果があったと答えた企業では、効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%でした。「売上や利益が向上した」は3.9%です。
- 課題は「専門人材が不足している」が50.1%、「生成AIの効果やリスクに関する理解が不足している」が45.8%、「適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい」が39.7%です。
- 用途は「文書・音声の要約・翻訳・校正」が82.5%、「文書・レポートの作成」が80.5%です。
多くの企業で、AIは要約や文書作成に使われています。業務の流れを変えるところまで進んだ企業は、まだ少数です。設問ごとに回答の対象企業が違うため、数字を引用するときは調査の図表の注記を確認してください。
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出典: IPA「DX動向2026」の画面の一部を切り抜き(2026年10月11日に取得)
AXは、BPRと同じ手順で進める
AXの進め方は、従来のBPR(業務改革)と同じです。現在の業務フローを資料にし、業務量と時間を数字で押さえ、将来の業務フローを描き、効果を測ります。AIは、将来の業務フローを実現する手段の一つです。
公的な手引きも同じ考え方を取っています。
- 総務省の「自治体DX全体手順書 第4.0版」は、工程表の最初に「BPRの取組の徹底」を置いています。理由として、BPRの取組がDXの成果を決定づけると説明しています。AIやRPAについても、既存の業務プロセスを前提にせず、業務の必要性と業務プロセスの見直しを先に行うよう求めています。
- デジタル庁の「実践ガイドブック」は、業務の現状把握の段階で、実績データの分析、業務の可視化、さまざまな立場の人が理解できる業務フローの作成を挙げています。目標の指標については、将来の目標に加えて開始時点の水準も把握し、差が分かるように設定する、と書いています。
どちらも行政機関向けの文書ですが、手順は民間企業でもそのまま使えます。
全体の流れ
AXは、次の7つの段階で進みます。
- 旗振り役を決め、タスクフォースをつくる
- 利用のルールを決める
- まず試しに使ってみる
- 現状を分析し、業務フローを資料にする
- 対象の業務を選び、目標の数字を決める
- ベンダーとツールを選び、新しい業務フローを設計して試す
- 本番に広げ、効果を測り続ける
1〜3は並行して進められます。4〜7は順番を守ってください。現状の分析を飛ばしてツールを選ぶと、何を解決するためのツールなのかが曖昧になります。
1. 旗振り役を決め、タスクフォースをつくる
AXには、経営層の中に旗振り役が必要です。担当者を1人任命するだけでは、部門をまたぐ調整ができません。
部門ごとにタスクフォースをつくる企業もあります。経理、総務、人事、営業といった部門ごとに数名のチームを置き、チームの中にリーダーを立てます。リーダーは、自部門の業務を選び、試した結果を全社の推進組織に報告します。全社の推進組織は、ルール、ツール、予算を受け持ちます。
公式に発表されている体制の例です。
- LINEヤフーは、全従業員約11,000人を対象にした生成AI活用の新しい働き方の中で、生成AIの活用を促す推進者を全部署に置くと発表しました(2025年7月)。
- 三菱UFJフィナンシャル・グループは、デジタル担当の役員を筆頭にした業態横断のプロジェクトチームを立ち上げ、推進の分科会とリスクの分科会を設けました。2025年11月には、組織の中でAI活用を進められる人材を「AIチャンピオン」として育成すると発表しています。
- 住友商事は、IT企画推進部が全体を進め、活用に意欲のある社員が手を挙げる「Copilot Champion」という役割を設けています。
- サイバーエージェントは、2023年10月に専任組織「AIオペレーション室」を新設しました。オペレーション業務を2026年までに6割削減するという目標を、組織の設置と同時に掲げています。
- KDDIは、社員1万人が使うAIチャットを公開する前に、部門横断の体制づくりから着手しました。
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出典: LINEヤフー プレスリリース(2025年7月14日)の画面の一部を切り抜き(2026年10月11日に取得)
IPAの調査では、AIの導入と活用を主導しているのは「IT部門の長」が46.0%、「経営層」が32.1%、「導入や利活用する現場の長」が27.5%でした。
止まりやすい場面: IT部門だけに任せると、業務を変える判断ができずに止まります。業務を変える権限は各部門の責任者にあるため、部門側のリーダーを最初から体制に入れてください。
2. 利用のルールを決める
社員が安心して使えるように、入力してよい情報、出力の確認の仕方、使ってよいサービスを決めます。ルールがないと、慎重な社員は使わず、一部の社員は会社が把握していないサービスを使います。
- 三井住友フィナンシャルグループは、従業員向けのAIアシスタントについて、開発は数日で済ませ、残りの3か月半をルールづくりに使ったと紹介しています。
- 日本ディープラーニング協会(JDLA)は、社内ルールのひな形として使える「生成AIの利用ガイドライン」を無料で公開しています。
- 個人情報保護委員会は、2023年6月に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を出しています。個人情報を含む内容を入力するときは、利用目的を達成するために必要な範囲内かを確認するよう求めています。本人の事前の同意なく個人データを入力する場合は、サービスの提供事業者がそのデータをAIの学習に使わないことなどを確認するよう求めています。
- 総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、2026年3月に第1.2版が公表されました。AIを使う事業者が取り組む事項を整理しています。
IPAの調査では、AIを導入・試験利用・利用を検討している企業のうち、全社的なガイドラインやルールを定めている企業は32.5%でした。AI独自のリスク管理を実施している企業は14.2%です。
止まりやすい場面: 禁止事項だけを並べたルールは、利用を止めます。「この情報は入力してよい」「この用途は確認なしで使ってよい」という、使ってよい範囲を先に書いてください。
3. まず試しに使ってみる
ルールと並行して、社員が実際に触れる環境を用意します。この段階の目的は、社員がAIにできることとできないことを自分で確かめ、「自分の業務のここに使えそうだ」という案を出せるようになることです。業務の流れを変える作業は、次の段階から始めます。
- 日清食品ホールディングスは、プロジェクトチームの立ち上げから約3週間で、グループ社員約3,600人に対話型AIを公開しました(2023年4月)。
- 横須賀市は、全庁での活用実証の結果を公表しています。約半数の職員が実際に使い、最終アンケートの回答者の約8割が、仕事の効率が上がる、利用を続けたいと答えました。最終アンケートで「概ね不適切な回答が返ってくる」と答えた職員が6%程度いたことも公表し、そのうえで本格的な利用に進みました。
- 神戸市は、2023年6月から9月に職員133名で試行し、2024年2月から全職員の利用に広げました。
- ソフトバンクは、2025年6月に全社員へ利用環境を配り、全員がAIエージェントを作る取り組みを行いました。2か月半で250万を超えるエージェントが作られたと紹介しています。
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出典: 横須賀市「ChatGPTの全庁的な活用実証の結果報告と今後の展開」の画面の一部を切り抜き(2026年10月11日に取得)
止まりやすい場面: 配っただけで終わると、利用者は増えません。試した結果(使った人数、使われた用途、困ったこと)を横須賀市のように数字で集めると、次の段階に進む判断ができます。
4. 現状を分析し、業務フローを資料にする
試用で出た案をもとに、対象になりそうな業務の現状を調べます。BPRと同じく、次の3つを資料にします。
- 業務フロー図: 誰が、どの順番で、何を見て判断し、どのシステムに入力しているかを図にします。担当者の頭の中にある例外の処理も書き出します。
- 業務量の一覧: 業務ごとの月の件数、1件あたりの時間、担当している人数をまとめます。
- 課題の一覧: 手戻り、待ち時間、属人化している判断を、業務フロー図の該当する箇所に結び付けます。
資料の粒度をそろえることが大切です。現場の担当者が書くと細かくなりすぎ、管理職が書くと粗くなりすぎる傾向があります。書き方の見本を1つの業務で作り、他の業務はその見本に合わせてください。
止まりやすい場面: 日常業務をしながら業務フローを書く時間は取りにくく、ここで数か月止まる企業があります。聞き取りと資料作成を外部の専門家が担当し、部門の担当者は内容の確認に集中する分担が有効です。
5. 対象の業務を選び、目標の数字を決める
資料をもとに、どの業務から着手するかを決めます。選ぶ基準は、件数が多いこと、手順が決まっていること、誤りが出たときの影響を人の確認で抑えられることです。
- 日清食品は、営業部門と連携して全国8拠点からメンバーを選び、約30の業務を対象に選定しました。
- LINEヤフーは、従業員の業務の3割を占める調査・検索、資料作成、会議といった共通の領域から着手すると発表しています。
目標の数字は、開始前の水準と一緒に決めます。「月に何件、1件あたり何分かかっている業務を、何分にする」という形にすると、後で効果を説明できます。
止まりやすい場面: 開始前の数字を取らずに始めると、効果を証明できません。経営会議で次の投資を説明する材料がなくなり、取り組みが縮小します。
6. ベンダーとツールを選び、新しい業務フローを設計して試す
対象の業務と目標が決まった段階で、その業務の本番の運用に使うベンダーとツールを選びます。選ぶときに確かめる点は次のとおりです。
- 対象の業務フローのどの工程を置き換えるのか
- 既存のシステムと、データをどう受け渡すか
- 入力したデータが、AIの学習に使われない設定になっているか
- 誤った出力を、どの段階で誰が確認するか
- 費用が、利用量に応じてどう増えるか
ツールが決まったら、将来の業務フローを描き、1つの部門で数週間試します。試験の結果は、段階5で決めた目標の数字と比べます。
止まりやすい場面: ベンダーの提案をそのまま受け入れると、自社の業務に合わない機能に費用を払うことになります。提案を評価できる人が社内にいない場合は、特定のベンダーと利害関係のない外部の専門家に評価を依頼してください。
7. 本番に広げ、効果を測り続ける
試験で目標に届いた業務から、本番に広げます。測定は続けます。
- パナソニック コネクトは、国内の全社員を対象にしたAI活用の実績を毎年公表しています。削減した時間は、導入後1年で18.6万時間、2024年に44.8万時間、2025年度に78.8万時間でした。2025年度の78.8万時間は総労働時間の3.4%にあたり、2030年に10%の削減を目指すとしています。
- 住友商事は、効果の計算方法を公開しています。アンケートで求めた1回の操作あたりの平均削減時間に操作の回数を掛け、さらに人件費を掛けています。2024年12月時点の削減効果は、1か月あたり約1万時間、年間約12億円でした。
- 旭化成は、個人の利用と組織の利用を分けて数字を出しています。書類の監査対応では、年間1,820時間を短縮しました。
止まりやすい場面: 導入時だけ測って終わると、利用が減っても気づけません。月次で利用者の割合と削減時間を見て、使われなくなった業務は原因を調べてください。
誰が進めるか: 3つの進め方
自社のタスクフォースで進める
業務を最もよく知っているのは自社の社員です。競争力の中心にある業務や、機密性の高いデータを扱う業務は、自社のタスクフォースで進める価値があります。
条件は、部門のリーダーが業務時間の一部をAXに充てられることです。兼務で時間が取れない場合、段階4の資料づくりで止まります。
設計から外部に依頼する
業務フローの資料化から、将来の業務フローの設計、試験運用、定着までを外部に依頼する方法です。依頼先は、大きく2つあります。
コンサルティング会社に依頼する場合は、数名のチームがまとまって入ります。複数の部門を同時に見直す大きな取り組みに向いています。
フリーコンサルタントに依頼する場合は、必要な役割だけを、必要な期間と稼働率で確保できます。フリーコンサルタントは、コンサルティング会社で経験を積んだ後に独立した専門家です。AXでは、次のような役割を担います。
- タスクフォースの運営を支える役割(進捗の管理、部門間の調整、経営層への報告資料の作成)
- 業務の聞き取りを行い、業務フロー図と業務量の一覧を作る役割
- ベンダーの提案を、中立の立場で評価する役割
- 将来の業務フローを設計し、試験運用の結果を測る役割
1人・1か月から契約でき、稼働率も週2〜3日から決められます。段階4だけ、段階6だけ、というように、止まっている段階に絞って依頼できる点が利点です。
依頼するときは、運用を引き継ぐ社内の担当者を最初に決めてください。作成した業務フロー図や手順書を社内の誰が受け取るかが決まっていないと、契約が終わった後に運用が止まります。
組み合わせて進める
実際には、組み合わせる企業が多くあります。タスクフォースが全体を進め、資料づくりと設計の一部をフリーコンサルタントが担当する、という形です。社内に知識が残り、作業の量も確保できます。
状況別の選び方
- 体制がまだない場合: 旗振り役を決め、部門ごとのタスクフォースをつくる(段階1)
- 社員がほとんど使っていない場合: ルールを決め、試用の環境を配る(段階2・3)
- 試用はしたが、業務は変わっていない場合: 業務フローを資料にする(段階4)
- 業務フローを書ける人がいない場合: 資料づくりを外部の専門家に依頼する
- ベンダーの提案を評価できない場合: 中立の立場の専門家に評価を依頼する
- 導入したが、効果を説明できない場合: 開始前の水準を調べ直し、目標の数字を決める(段階5)
フリーコンサルタントが入っている仕事
PERSONAに掲載している案件から、AXの現場で外部の専門家がどの役割を担っているかが分かります。
2026年10月11日時点で、DX・デジタル変革の分野では220件を募集しています。月額の中央値は165万円、中間帯は150〜185万円です(単価130万円以上の案件で集計)。
単価の条件を付けずに掲載中の全案件825件を数えると、案件名にAIを含むものは91件ありました(2026年10月11日時点)。役割で分けると、企画・推進・PMOが58件、開発が27件、AIガバナンスが6件です。開発よりも、企画を立てて関係者を動かす役割の募集が多くなっています。分野ごとの最新の件数と単価は、DX・デジタル変革の案件一覧で確認できます。
最初の一歩
- AI業務診断(無料): 4つの質問で、部署ごとの効率化の見込みを確認できます。
- AI導入効果アセスメント: 1部署から、業務の棚卸しと削減効果の試算を約2週間で行います。段階4と5にあたる作業です。
- AI業務刷新: 業務フローの書き起こしから設計、試験運用、定着までを、コンサルティング会社でマネージャー以上を経験した担当者が進めます。
- 企業向けの人材紹介: タスクフォースを支えるフリーコンサルタントが必要な場合は、こちらからご相談ください。
内製と外部委託の分け方は、生成AI業務導入の内製vs外部委託でも取り上げています。
参考にした公式情報
- IPA「DX動向2026」(2026年7月30日公開)
- 総務省「自治体DX全体手順書 第4.0版」(2025年3月28日)
- デジタル庁「デジタル社会推進標準ガイドライン」実践ガイドブック
- 総務省「AI事業者ガイドライン」(第1.2版・2026年3月31日)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
- 内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」
- 日本ディープラーニング協会「生成AIの利用ガイドライン」
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